公正証書契約のメリット・デメリットを徹底解説!費用や手続きも

契約書の作成方法には様々な選択肢がありますが、中でも「公正証書」による契約は特別な法的効力を持つことで知られています。しかし、公正証書で契約することの本当のメリットや注意点はあまり知られていないのが現状です。この記事では、公正証書契約のメリット・デメリットや費用面、一般的な契約書との違いなど、総合的な情報をご提供します。また、具体的な事例も交えながら、どのような場合に公正証書が適しているのかについても詳しく解説します。トラブルを未然に防ぎ、ビジネスや個人の取引を守るための選択肢として、公正証書契約が適しているかどうかを判断する材料にしていただければ幸いです。
目次
📝公正証書とは?その法的根拠と基本知識
公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書です。公証人が当事者の陳述に基づいて作成するため、高い証明力と信頼性を持ちます。
公正証書の法的根拠は主に「公証人法」と「民事訴訟法」に定められています。公証人法は公証人の職務や公正証書の作成手続きについて規定しています。また、民事訴訟法第228条2項は公正証書が「強い証明力」を持つことを定めています。
公正証書で作成できる契約は多岐にわたります。一般的なものとしては以下のようなものがあります:
- 金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)
- 不動産賃貸借契約(賃貸住宅・オフィスなど)
- 売買契約(不動産、高額動産など)
- 請負契約(建設工事、システム開発など)
- 遺言(公正証書遺言)
- 離婚に関する契約(慰謝料、養育費、財産分与など)
- 任意後見契約(将来の判断能力低下に備えた契約)
📝公正証書契約のメリット
公正証書で契約を結ぶことには、いくつもの重要なメリットがあります。ここでは特に重要な5つのメリットについて解説します。
1. 確実な証拠力 – 「真正の推定」
公正証書は「真正の推定」という法的効力を持ちます。これは、民事訴訟法第228条2項に基づき、裁判所がその証書を真正なものとして取り扱うことを意味します。通常の契約書であれば、紛争時にその真正性(本当に当事者が作成したものか)を立証する必要がありますが、公正証書ではその必要がありません(法律上の推定)。
2. 執行認諾文言による強制執行
金銭の支払いや物の引き渡しなどを内容とする契約では、「執行認諾文言」を入れることができます。これにより、相手が契約を守らなかった場合、改めて裁判を起こすことなく、直ちに強制執行手続きに移行できるというメリットがあります。
3. 契約内容の明確化と紛争予防
公正証書は公証人という法律の専門家が関与して作成されるため、契約内容が法的に適切かつ明確に記述されます。曖昧な表現や解釈の余地のある条項が減り、後々のトラブルや紛争を未然に防ぐ効果があります。また、公証人が関与することで、当事者が契約内容を正確に理解した上で合意することが担保されます。
4. 時効の中断効果
執行認諾文言付きの公正証書は、債権の消滅時効の進行を中断する効果があります。通常、金銭債権は一定期間(多くは5年)経過すると時効により消滅しますが、公正証書を作成することで時効の進行を止めることができます。これにより、長期間に渡る債権の保全が可能になります。
5. 長期保存と再発行の保証
公正証書は公証役場で原本が50年間保管されます。そのため、紛失や災害などで自分の手元にある契約書がなくなったとしても、公証役場で謄本を再取得することが可能です。これは長期間に渡る契約や将来的に発生する可能性のある紛争に備える上で大きな安心材料となります。
📝公正証書契約の注意点・デメリット
公正証書契約には多くのメリットがある一方で、いくつかの注意点やデメリットも存在します。契約方法を選択する際には、これらの点も十分に考慮する必要があります。
1. 費用面での負担
公正証書を作成するには手数料がかかります。この手数料は契約金額や内容に応じて変動し、高額な契約では相応の費用負担が生じます。また、証人が必要な場合は証人への日当なども考慮する必要があります。さらに、専門家(行政書士や弁護士など)に依頼する場合は、その報酬も別途必要になります。
2. 手続きの煩雑さと時間
公正証書の作成には、公証役場への訪問、必要書類の準備、関係者全員の調整など、一定の手続きが必要です。また、公証人のスケジュール次第では、契約締結までに時間がかかることもあります。急を要する契約には不向きな場合があるでしょう。
3. 公開性と第三者の関与
公正証書の作成過程では、公証人や証人など第三者が関与します。そのため、極めて秘密性の高い契約内容や、対外的に知られたくない取引には適さない場合があります。特にプライバシーに関わる内容や企業の機密事項を含む契約では、この点に注意が必要です。
4. 柔軟性の制限
公正証書は厳格な法的要件に基づいて作成されるため、当事者間の柔軟な対応や解釈の余地が限られることがあります。また、一度作成した公正証書を変更するには、再度手続きを踏む必要があり、機動的な契約変更には適さないケースもあります。
5. 全ての契約に適用できるわけではない
法律上、公正証書で作成できない契約や合意も存在します。例えば、婚姻そのものや養子縁組などの身分行為、また特定の法律で別の方式が定められている契約などは公正証書では対応できません。契約内容によっては、公正証書という選択肢が使えないこともあります。
- 契約金額に応じた手数料負担
- 公証役場への訪問や関係者の日程調整の手間
- 公開性による秘密保持の制限
- 柔軟な対応や即時的な変更が難しい
- 法的に公正証書で作成できない契約もある
📝公正証書と他の契約形式の比較
契約締結の方法は公正証書だけではありません。ここでは、各契約方法のメリット・デメリットを比較し、どのような場面でどの方法が適しているかを考えてみましょう。
契約方法 | 主なメリット | 主なデメリット | 適している場面 |
---|---|---|---|
公正証書契約 | ・高い証明力 ・強制執行可能 ・長期保存 |
・費用が高い ・手続きが煩雑 |
・高額取引 ・長期契約 ・履行の確実性が必要な場合 |
私文書(当事者間の契約書) | ・費用が安い ・手続きが簡便 ・柔軟な対応可能 |
・証明力が弱い ・強制執行には裁判が必要 |
・少額取引 ・信頼関係のある取引 ・頻繁に変更が必要な契約 |
公文書による認証 | ・比較的低コスト ・日付の証明 ・偽造防止 |
・内容の適法性は保証されない ・強制執行不可 |
・中程度の重要性の取引 ・日付の確定が重要な場合 |
口頭契約 | ・費用なし ・即時契約可能 |
・証明が極めて困難 ・内容の証明力なし |
・少額日常取引 ・即時履行される取引 |
契約方法の選択は、取引金額、契約期間、当事者間の信頼関係、履行の確実性の重要度などを総合的に判断する必要があります。例えば:
公正証書が特に適している場面
- 高額な金銭貸借(特に個人間)
- 離婚時の慰謝料・養育費支払い
- 重要な商取引や不動産取引
- 相手の信用に不安がある場合
- 将来的に履行されるべき長期契約
- 強制執行の必要性が予想される場合
私文書(一般契約書)が適している場面
- 企業間の継続的取引
- 信頼関係が確立されている取引
- 少額または短期の契約
- 頻繁に条件変更が予想される契約
- 迅速な契約締結が必要な場合
- 内容に高い秘密性が求められる場合
📝公正証書が適している事例と不要な事例
ここでは、実際の事例を通して、公正証書が特に効果を発揮するケースと、必ずしも公正証書が必要ではないケースを具体的に解説します。
【事例1】公正証書が適している例:協議離婚での養育費の取り決め
A子さん(35歳)とB男さん(37歳)は、話し合いの上で協議離婚することになりました。2人の間には8歳の子どもがいて、親権はA子さんが持ち、B男さんは毎月5万円の養育費を支払うことで合意しています。
このケースでは、以下の理由から公正証書での契約が強く推奨されます:
- 長期継続的な支払い:子どもが成人するまで10年以上の長期間にわたる支払い義務が発生するため
- 将来的な関係変化:離婚後は両者の関係性が変わり、B男さんが再婚するなど状況変化の可能性があるため
- 強制執行の確保:B男さんが支払いを怠った場合に、裁判なしですぐに強制執行が可能な体制を整えておくため
- 子どもの利益保護:養育費は子どもの生活や教育に直結する重要事項であるため
公正証書で養育費について契約することで、A子さんは万が一B男さんが支払いを滞らせた場合でも、すぐに法的手続きを取ることができ、子どもの生活を守ることができます。また、執行認諾文言付きの公正証書があることが抑止力となり、B男さんも支払い義務を怠りにくくなります。
【事例2】公正証書が必ずしも必要でない例:信頼関係のある企業間の短期取引
C株式会社とD株式会社は、10年以上の取引実績があり、良好な関係を築いている企業です。今回、Cから期間3か月、取引金額300万円のシステム開発業務をDに委託することになりました。
このケースでは、以下の理由から通常の契約書(私文書)での契約も十分考えられます:
- 既存の信頼関係:長年の取引実績があり、双方に強い信頼関係が構築されているため
- 短期間の契約:3か月という比較的短期間の契約であるため
- 取引金額:企業間取引としては比較的少額であるため
- 業界の慣行:システム開発業界では仕様変更が頻繁にあり、柔軟な対応が求められるため
- 効率性重視:公正証書作成の手間と費用をかけるよりも、迅速に契約を締結して業務を開始したいため
このような場合、公正証書を作成するコストと時間をかけるよりも、両社の法務部や担当者が確認した通常の契約書を交わす方が合理的と言えるでしょう。ただし、契約内容が明確で、双方の権利義務が適切に定められた契約書を作成することは必須です。
判断のポイント
公正証書が必要かどうかを判断する際の重要なポイントは以下の通りです:
- 契約当事者間の信頼関係の程度
- 契約金額の大きさ
- 契約期間の長さ
- 履行確保の重要性
- 紛争発生時のリスクの大きさ
- 契約内容の変更可能性
これらの要素を総合的に判断して、自分の状況に最適な契約方法を選択することが大切です。迷った場合は、行政書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
📝公正証書の作成手続きと費用
公正証書を作成するためには、一定の手続きと費用が必要です。実際の流れと費用の目安を解説します。
公正証書作成の手続き
- 公証役場への事前相談:まずは最寄りの公証役場に電話等で相談し、必要書類等の確認を行います。公証役場は全国に約300か所あり、どこの公証役場でも相談は無料です。
- 公正証書案の作成:契約内容を記載した公正証書の原案を作成します。
- 必要書類の準備:契約内容に応じた必要書類(身分証明書、印鑑証明書、契約の対象となる物件の資料など)を準備します。
- 原案の提示、公正証書作成の日程調整:公証役場へ連絡し、原案を公証人に送ります。Eメール等でも受付けてくれる場合がありますので事前に確認しておくとよいでしょう。その後、公正証書作成の日程調整や予約をします。
- 公証役場での手続き:指定された日時に当事者全員が公証役場に出向き、公証人の面前で契約内容を確認し、署名・押印します。
- 証書の交付:手続き完了後、正本や謄本が交付されます。
なお、病気や高齢などの理由で公証役場に行くことが難しい場合は、公証人に出張してもらうことも可能です。ただし、その場合は別途出張費用がかかります。
公正証書作成の費用
公正証書の作成には主に以下の費用がかかります:
- 手数料:契約金額に応じて法定されており、5,000円から数万円程度まで変動します。
- 正本・謄本の交付費用:1通あたり数百円から数千円程度です。
- 証人費用:証人が必要な場合、日当などの実費がかかることがあります。
- 専門家への報酬:行政書士や弁護士に依頼する場合の報酬(案件により異なります)。
- 出張費用:公証人が出張する場合、日当(1日2万円、4時間以内なら1万円)と交通費がかかります。
公正証書作成の注意点
公正証書作成時には以下の点に注意しましょう:
- 予約の必要性:公証役場は予約制の場合が多いため、事前に電話で確認しましょう。
- 本人確認書類:運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの写真付き身分証明書が必要です。
- 印鑑:契約内容によっては実印と印鑑証明書が必要な場合があります。
- 契約書案の事前準備:スムーズに進めるためには、事前に契約内容を整理し、可能であれば契約書案を用意しておくと良いでしょう。
- 当事者全員の出席:原則として当事者全員が公証役場に出席する必要があります(代理人による場合は委任状が必要)。
📝専門家に依頼するメリットと公証役場の対応
公正証書の作成を専門家に依頼するメリットと、公証役場の実際の対応について解説します。
行政書士や弁護士に依頼するメリット
公正証書の作成に行政書士や弁護士などの専門家が関与するメリットとしては、以下のような点が挙げられます:
- 専門的知識に基づく適切な条項設計:法的な知識を活かして、抜け漏れのない契約条項を設計できます。
- 法的リスクの事前洗い出し:将来発生し得るトラブルを予測し、対応策を契約書に盛り込むことができます。
- 公証役場との調整:公証役場とのやり取りや必要書類の準備を代行してくれるため、手続きがスムーズになります。
- 当事者間の利害調整:契約当事者間の微妙な利害関係を調整し、双方が納得できる内容に整理します。
- 専門的アドバイス:公正証書が本当に必要かどうか、または他の選択肢も含めて最適な方法を提案してくれます。
- 書類作成の正確性:法律文書作成のプロとして、正確かつ効果的な文書を作成できます。
行政書士と弁護士の違い
公正証書作成の依頼先として、行政書士と弁護士はどちらも選択肢となりますが、それぞれ得意分野が異なります:
- 行政書士:官公署に提出する書類や権利・義務に関する書類(権利の発生・存続・変更・消滅を目的とする意思表示を内容とする書類)の作成が本来業務であり、契約書作成の実務に精通しています。比較的リーズナブルな費用で対応可能なケースが多いです。
- 弁護士:より複雑な法律問題や、紛争性の高い案件、法的解釈が難しい契約などに強みがあります。訴訟も視野に入れた総合的なアドバイスが可能です。
案件の複雑さや紛争リスクの程度に応じて、適切な専門家を選ぶと良いでしょう。
公証役場での直接相談と対応
専門家に依頼せず、自分で公証役場に直接相談することも可能です。実際の公証役場の対応については以下の通りです:
- 無料相談の提供:全国の公証役場では、公正証書作成に関する相談は無料で受け付けています。
- 相談方法の多様性:対面だけでなく、電話やメール、FAXなどでも相談可能です。
- 相談内容の制限:公証役場で相談できるのは、あくまで公証事務に関することのみで、一般的な法律相談には応じていません。
- 予約の必要性:多くの公証役場では予約が推奨されていますが、役場によっては予約なしでも対応しているところもあります。
- 相談の深度:公証役場での相談は基本的に手続きや必要書類についての案内が中心であり、契約内容の法的な精査や具体的なアドバイスについては、専門家ほど詳細には対応していない場合があります。
こまいぬ行政書士法人のサポート内容
こまいぬ行政書士法人では、公正証書作成に関する相談から公証役場への同行までトータルにサポートしております。具体的なサポート内容は以下の通りです:
- 公正証書が適切かどうかの初期判断と助言
- 契約内容の法的チェックと最適な条項設計
- 契約書案の作成と公証人との事前調整
- 必要書類の準備と手続きのサポート
- 公証役場への同行と手続き立会い
- 契約後のフォローアップと保管サービス
特に複雑な契約や高額な取引、将来的なリスクが懸念される場合などは、専門家の知見を活用することで、より安全で確実な契約締結が可能になります。まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
公正証書による契約は、高い証明力と強制執行の可能性という大きなメリットがある一方で、費用面や手続きの煩雑さというデメリットも存在します。契約方法の選択は、取引金額、履行の確実性の重要度、当事者間の信頼関係などを総合的に判断することが大切です。
特に養育費支払いなどの長期継続的な契約や高額な金銭貸借、将来的に履行確保が重要な契約では、公正証書による契約が有効な選択肢となります。一方で、信頼関係のある企業間の短期取引など、必ずしも公正証書が必要でないケースもあります。
公正証書作成の手続きや費用についての理解を深め、必要に応じて行政書士や弁護士といった専門家のサポートを受けることで、より安全で確実な契約締結が可能になります。一方、公証役場でも無料相談を受け付けていますが、法的なアドバイスや契約内容の詳細な検討については、専門家の助力を得ることも検討すべきでしょう。
重要なのは、それぞれの契約形態の特徴を理解した上で、自分の状況に最も適した方法を選択することです。専門家のアドバイスを参考にしながら、安全で確実な契約締結を目指しましょう。
