📝後見制度の概要

後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方を法律的に保護・支援するための制度です。大きく分けると、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。

後見制度の概要図 🖼️後見制度の全体像を示す図表🖼️

法定後見制度とは

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分な状態になった方のために、家庭裁判所によって後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が選任される制度です。本人の判断能力の程度によって、以下の3つの類型があります。

  • 成年後見:判断能力が欠けているのが通常の状態の方に対するもの。成年後見人には、財産に関する全般的な代理権、同意権、取消権が付与されます。
  • 保佐:判断能力が著しく不十分な方に対するもの。保佐人には、民法13条1項に定められた特定の行為(重要な財産行為等)に対する同意権・取消権が付与されます。また、申立てにより、特定の法律行為について代理権を付与することも可能です。
  • 補助:判断能力が不十分な方に対するもの。補助人には、申立てにより、特定の法律行為について同意権・取消権・代理権を付与することができます。成年後見や保佐よりも本人の自己決定権が尊重される仕組みになっています。

法定後見制度は、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所に申立てを行い、審判によって開始されます。申立権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などです。家庭裁判所は、本人の判断能力の程度を考慮し、最も適切な類型を選択します。

選任される後見人等は、親族が選ばれることもありますが、最近では、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や、法人(社会福祉法人や社団法人など)が選任されるケースも増えています。また、複数の後見人等が選任される場合もあります(複数後見)。

ただし、法定後見制度には下記のような課題もあります。

  • 本人の意向が十分に反映されにくい場合がある
  • 後見人等の選任を本人が選べない
  • 開始後の後見人等の変更が困難
  • 成年後見においては、本人の行為能力が画一的に制限される
  • 後見開始の審判が官報に掲載されるため、プライバシーが守られにくい

任意後見制度とは

一方、任意後見制度は、まだ判断能力が十分あるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分で選んだ人(任意後見人)に支援してもらう内容を契約で決めておく制度です。自己決定の尊重を基本理念としており、より本人の意思を反映できる仕組みとなっています。

任意後見制度を利用する場合、公証人の作成する公正証書によって任意後見契約を結びます。そして、後に本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所に申立てをして「任意後見監督人」を選任してもらうことで、任意後見契約の効力が発生します。任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督する役割を担います。

任意後見制度には下記のような特徴があります。

  • 後見人を自分で選ぶことができる
  • 委任する事務の内容を自分で決めることができる
  • 報酬額も自由に取り決めができる
  • 官報公告がないためプライバシーが守られやすい
  • 自分の意思を尊重した支援を受けることができる

この任意後見制度について、さらに詳しく見ていきましょう。

📝任意後見契約とは

任意後見契約とは、民法に定められた契約の一種で、将来、判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ信頼できる人に自分の生活、療養看護、財産管理に関する事務について代理権を与える契約です。これにより、自分で選んだ人に、自分の望む方法で支援してもらうことができます。任意後見契約は必ず公正証書によって作成されなければならず、口頭や私文書による契約は認められていません。

任意後見契約の流れ 🖼️任意後見契約の仕組みと流れを示す図🖼️

任意後見契約の種類

任意後見契約には、主に以下の3つの類型があります。

  • 将来型:現時点では委任事務を発生させず、将来、本人の判断能力が低下した後に任意後見監督人が選任されてから、任意後見契約の効力が生じるタイプ。最も一般的な形式です。
  • 即効型:契約締結と同時に任意後見監督人選任の申立てを行い、任意後見契約の効力を直ちに発生させるタイプ。すでに判断能力の低下が始まっているが、法定後見ではなく任意後見を希望する場合に利用されます。
  • 移行型:任意後見契約と同時に、財産管理等の委任契約を結び、現時点から財産管理や身上監護の事務を委任しておき、将来、判断能力が低下した際に任意後見に移行するタイプ。初期段階からサポートが必要な場合に適しています。

任意後見契約の基本的な流れ

任意後見契約の流れは、大きく以下の3つのステップに分けられます。

  • 契約締結段階:本人に十分な判断能力があるうちに、公証役場で公正証書により任意後見契約を締結します。契約書には、任意後見人の氏名、委任する事務の内容、報酬などを定めます。
  • 契約発効前段階:本人の判断能力が低下するまでは、契約は効力を発生せず、本人は通常どおり自分で判断し生活を送ります。移行型の場合は、この段階で財産管理等の委任契約が効力を持ちます。
  • 契約発効段階:本人の判断能力が低下したと判断された場合、本人、任意後見受任者または親族等が家庭裁判所に申立てを行い、任意後見監督人が選任されると、任意後見契約が発効します。任意後見人は任意後見監督人の監督のもと、契約で定められた事務を行います。

任意後見人の主な役割

任意後見人は、契約で定められた範囲内で、本人に代わって以下のような事務を行います。

  • 財産管理に関する事務
    • 預貯金の管理や払い戻し
    • 不動産の管理や売却
    • 相続手続き
    • 税金や公共料金の支払い
    • 年金の受け取りや手続き
    • 保険金の請求手続き
    • 株式や投資信託などの管理
  • 身上監護に関する事務
    • 介護サービスの契約
    • 施設入所の契約
    • 医療契約
    • 住居の確保や契約
    • 福祉サービスの利用契約
    • 日常生活に必要な物品の購入契約

ただし、任意後見人にできないこともあります。例えば、以下のような行為は、任意後見人が代理することはできません。

  • 身分行為:結婚や離婚、養子縁組など
  • 一身専属的な行為:遺言の作成、認知など
  • 医療行為の同意:手術や治療の同意(法的代理権はない)
  • 契約書に明記されていない行為:任意後見契約書に記載されていない事項

任意後見監督人の役割

任意後見監督人は、家庭裁判所が選任する第三者で、任意後見人が適切に事務を行っているかを監督する役割を担います。具体的には、以下のような職務があります。

  • 任意後見人の事務を監督する
  • 任意後見人に対して定期的な報告を求める
  • 不正行為を発見した場合に任意後見人の解任を家庭裁判所に請求する
  • 本人の状況を定期的に確認する
  • 家庭裁判所への定期的な報告
  • 本人と任意後見人の間の利益相反行為について、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する

この任意後見監督人は、通常、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職から選任されることが多いです。任意後見監督人には、月額1〜2万円程度の報酬が発生しますが、本人の財産状況などによって異なる場合があります。この報酬は本人の財産から支払われます。

任意後見契約の終了

任意後見契約は、以下のような場合に終了します。

  • 本人が死亡した場合
  • 任意後見人が死亡した場合
  • 本人または任意後見人が破産手続開始の決定を受けた場合
  • 任意後見人が解任された場合
  • 本人の判断能力が回復した場合
  • 法定後見が開始された場合(原則として、任意後見が優先されますが、特段の事情があると認められる場合は、法定後見が開始されることもあります)

任意後見契約の終了後、任意後見人は最終的な報告を行い、本人の財産を返還する必要があります。

📝任意後見契約のメリット・デメリット

任意後見契約には、法定後見制度と比較していくつかのメリットとデメリットがあります。ご自身の状況や希望に合わせて、最適な選択をするための参考にしてください。

メリット

  • 後見人を自分で選べる:信頼できる親族や専門家など、自分の希望する人を後見人に指定できます。法定後見では家庭裁判所が選任するため、必ずしも希望通りにはなりません。子どもがいない方や遠方に住む親族しかいない方にとって、特に重要なメリットとなります。
  • 後見事務の内容を自由に決められる:財産管理の範囲や方法、生活・療養看護に関する事務など、委任する内容を細かく指定できます。例えば、「預貯金の管理はするが、特定の不動産は売却しない」といった細かな希望を反映させることができます。
  • 費用を自由に設定できる:任意後見人への報酬額を契約で自由に決めることができます。法定後見では家庭裁判所が報酬額を決定します。月額制や成功報酬制など、柔軟な報酬体系を設定することも可能です。
  • プライバシーの保護:任意後見では、法定後見のように、後見開始の審判が官報に掲載されることがありません。このため、銀行口座の凍結などのリスクも低くなります。
  • 将来への不安軽減:自分の意思が尊重される形で将来の支援体制を整えられるため、将来への不安が軽減されます。特に一人暮らしの高齢者や、障害のあるお子さまを持つ親御さんにとって、大きな安心につながります。
  • 契約内容の柔軟性:個人の状況に合わせて、きめ細かい契約内容を設計できます。例えば、複数の任意後見人を選任し、それぞれに異なる事務を委任することも可能です。
  • 法定後見よりも権利制限が少ない:法定後見では、選挙権や資格・職業上の制限がある場合がありますが、任意後見ではそのような制限はありません。
任意後見契約のメリット・デメリット比較表 🖼️任意後見契約と法定後見制度の比較表🖼️

デメリット

  • 監督人の費用が必要:任意後見監督人が選任されると、その報酬(月額1〜2万円程度が一般的)を支払う必要があります。この費用は、本人の財産から支払われますので、財産状況によっては負担となる場合もあります。
  • 費用の二重負担:任意後見人と任意後見監督人の両方に報酬を支払うことになり、費用負担が増える可能性があります。例えば、任意後見人に月額3万円、任意後見監督人に月額2万円とすると、毎月5万円の費用がかかります。
  • 契約締結時に公正証書作成費用がかかる:公証役場での公正証書作成には、基本料金として11,000円と、その他の費用(証書の枚数や財産額によって変動)がかかります。複雑な契約内容になると、2〜3万円程度の費用が発生することもあります。
  • 契約発効までタイムラグがある:本人の判断能力が低下しても、家庭裁判所への申立てから任意後見監督人の選任まで時間がかかることがあります。この間、適切な支援が受けられない「空白期間」が生じる可能性があります。
  • 任意後見人の不正防止が難しい:任意後見監督人が選任されるまでは、不正行為のチェック体制がないため、注意が必要です。特に、財産管理等委任契約と組み合わせた移行型の場合、判断能力低下前の財産管理については監督体制がありません。
  • 任意後見契約の存在が知られていないリスク:本人が認知症などになった際に、任意後見契約の存在が親族等に知られておらず、法定後見が申し立てられてしまうリスクがあります。
  • 医療行為の同意権がない:現行法上、任意後見人には医療行為への同意権はありません。重要な医療判断が必要な場合、任意後見人が代わりに同意することはできません。

これらのメリット・デメリットを踏まえつつ、ご自身の状況に最も適した選択をすることが大切です。一概にどちらが良いということではなく、個々の状況や希望に応じた制度選択が重要となります。また、次に説明する「他の制度との組み合わせ」を検討することで、デメリットを補完した制度設計も可能になります。

📝他制度との組み合わせによる可能性

任意後見契約の大きな特徴の一つは、他の法的制度と組み合わせることで、より充実した将来の備えを構築できることです。ここでは、任意後見契約と相性の良い他の制度について解説します。

任意後見契約と他制度の組み合わせ図 🖼️任意後見契約と他制度の組み合わせ可能性を示す図🖼️

1. 見守り契約・生活支援契約

判断能力が低下する前の段階から、定期的な安否確認や生活支援を受けられる契約です。任意後見契約とセットで結ぶことで、判断能力低下前から判断能力低下後まで、切れ目のない支援体制を構築できます。

  • 契約内容例:週1回の訪問による安否確認、買い物支援、通院付き添い、生活相談など
  • メリット:早い段階から支援を受けられる、異変の早期発見が可能、孤独死防止、遠方に住む親族の安心感向上
  • 費用目安:訪問頻度や支援内容によって変動。月額5,000円〜3万円程度
  • 契約相手例:社会福祉士、行政書士、NPO法人、社会福祉協議会など

2. 財産管理等委任契約(事務委任契約)

判断能力があるうちから、財産管理や生活支援の事務を他者に委任する契約です。任意後見契約と組み合わせることで、判断能力低下前から判断能力低下後まで、財産管理の一貫性を保つことができます。これにより、上記で説明した「移行型」の任意後見契約を実現することができます。

  • 契約内容例:預金通帳の管理、公共料金の支払い代行、確定申告の手続き代行、不動産の管理など
  • メリット:早い段階から財産管理の支援を受けられる、手続きの煩雑さを軽減できる、金銭管理の透明性確保
  • 費用目安:管理する財産額や業務内容によって変動。月額1万円〜5万円程度
  • 契約相手例:弁護士、司法書士、行政書士、税理士、信託銀行など
  • 注意点:監督者がいないため、不正防止の仕組みを契約に盛り込むことが重要。例えば、定期的な家族への報告義務や、複数の専門家によるチェック体制などが考えられます。

3. 死後事務委任契約

自分の死後の葬儀や納骨、家財整理などの事務を他者に委任する契約です。任意後見契約と組み合わせることで、判断能力低下後から死後までの一貫したケアを実現できます。

  • 契約内容例:葬儀・埋葬の手配、住まいの片付け・解約、ペットの引き取り先の手配、デジタル遺品の処理、供養など
  • メリット:死後の事務手続きの不安が解消される、遺族の負担を軽減できる、希望通りの葬儀等が実現できる
  • 費用目安:預託金として50万円〜100万円程度(葬儀費用等を含む)
  • 契約相手例:弁護士、司法書士、行政書士、NPO法人、葬儀社など
  • 注意点:必要な費用を生前に預託しておく必要があります。また、相続人が死後事務に異議を唱える可能性もあるため、遺言書と併用することが望ましいでしょう。

4. 家族信託

自分の財産を信頼できる人(受託者)に託し、自分や家族のために管理・処分してもらう仕組みです。任意後見契約と組み合わせることで、より幅広い財産管理が可能になります。

  • 契約内容例:自宅不動産の管理・売却、相続対策、「親なき後」の子どもの生活資金確保、資産の世代間継承など
  • メリット:不動産などの管理・処分が柔軟にできる、後見制度では難しい投資なども可能、生前から死後までの一貫した財産管理が実現できる
  • 費用目安:信託契約作成費用として30万円〜80万円程度
  • 契約相手例:家族・親族(民事信託)、信託銀行(商事信託)
  • 注意点:家族信託(民事信託)では、受託者の監督機能が弱いため、任意後見制度と組み合わせることで、受託者の不正を防止する効果が期待できます。

5. 尊厳死宣言(リビング・ウィル)

終末期医療に関する自分の意思を事前に表明しておく文書です。任意後見契約と組み合わせることで、医療面での意思も尊重される体制を整えられます。

  • 内容例:延命治療の希望有無、人工呼吸器の使用有無、緩和ケアの希望など
  • メリット:自分の医療に関する意思を明確にできる、家族の精神的負担を軽減できる
  • 注意点:法的拘束力はありませんが、医師や家族に自分の意思を伝えるための重要な資料になります。また、「事前指示書」として、より具体的な医療の希望を記載することも可能です。医療機関への届出や、任意後見人に対しても周知しておくことが重要です。

6. 遺言書

自分の死後の財産分配について意思表示をする文書です。任意後見契約と組み合わせることで、判断能力低下後から死後までの一貫した意思実現が可能になります。

  • 内容例:財産の分配方法、特定の財産の承継先、相続人以外への遺贈、付言事項(葬儀の希望など)
  • メリット:自分の意思による財産分配ができる、相続トラブルの防止、円滑な相続手続きの実現
  • 費用目安:公正証書遺言の場合、基本料金11,000円と付随費用
  • 注意点:遺言書は判断能力があるうちに作成する必要があります。任意後見契約を結ぶタイミングで、同時に遺言書も作成しておくことをお勧めします。

制度組み合わせのパターン例

これらの制度を組み合わせることで、さまざまな状況に対応できる総合的な「将来への備え」を構築することができます。以下に、代表的な組み合わせパターンをご紹介します。

パターン 組み合わせる制度 適した状況 メリット
基本型 任意後見契約(将来型)+ 遺言書 比較的若い世代の備え 最低限の将来への備えを整える
安心生活型 任意後見契約 + 見守り契約 + 死後事務委任契約 一人暮らし高齢者 現在の見守りから死後の手続きまで一貫した支援
資産承継型 任意後見契約 + 家族信託 + 遺言書 資産がある方の相続対策 生前の資産管理から死後の承継まで一貫した管理
親なき後対応型 任意後見契約 + 家族信託 + 死後事務委任契約 障害のある子の親 親なき後の子の生活資金確保と身上保護
総合安心型 任意後見契約 + 財産管理等委任契約 + 見守り契約 + 死後事務委任契約 + 遺言書 高齢者の総合的な備え 現在から死後まで切れ目のない支援体制

どのような組み合わせが最適かは、個人の状況や希望によって異なります。次のセクションでは、具体的な事例を通じて、これらの制度組み合わせがどのように活用されているかをご紹介します。

📝多様な活用事例

任意後見契約は、様々な状況に対応できる柔軟性を持っています。ここでは、前章で解説した「他制度との組み合わせ」を活用した、具体的な事例をご紹介します。それぞれの方がどのような課題を抱え、どのようなニーズがあり、どのような制度設計を行ったのかを詳しく見ていきましょう。

高齢者の方の活用事例

【事例1】一人暮らしの75歳女性Aさんの場合 —「安心生活型」の事例—

  • 状況:Aさんは75歳の一人暮らしの女性。子どもはなく、遠方に住む甥が唯一の親族です。最近物忘れが増えてきたことを心配し、将来の備えを考えることにしました。特に、自分の判断能力が低下した場合の生活と財産管理、そして自分の死後の葬儀や供養について不安を感じていました。
  • 課題とニーズ
    • 現在から将来にわたる見守りと生活支援
    • 判断能力低下後の財産管理
    • 死後の葬儀や供養、家財整理
    • 遠方に住む甥への負担軽減
  • 制度設計
    • 見守り契約:地元のNPO法人との間で、週2回の訪問による安否確認、日常生活の相談支援、緊急時の対応をお願いする契約を締結。(月額15,000円)
    • 任意後見契約:信頼できる行政書士を任意後見人に指定。財産管理と福祉サービスの利用契約等を委任。(月額30,000円)
    • 死後事務委任契約:同じ行政書士に、葬儀、納骨、家財整理、各種解約手続き等を委任。(預託金80万円)
    • 遺言書:財産の大部分を甥に相続させる内容で作成。預貯金の一部は、お世話になった知人や支援者への謝礼として遺贈。
  • 特徴的な点:見守り契約で現在の不安を解消しつつ、任意後見契約で将来の判断能力低下に備え、さらに死後事務委任契約と遺言書で死後の手続きまでカバーする総合的な制度設計を行いました。また、甥とは定期的に状況を共有する仕組みを作り、任意後見監督人選任の際には甥が申立てを行うことも取り決めました。

【事例2】高齢夫婦のBさん夫妻(80歳・78歳)の場合 —「相互支援型」の事例—

  • 状況:Bさん夫妻は共に80代。お互いが元気なうちは問題ないが、どちらかが先に判断能力を失った場合や、二人とも判断能力が低下した場合の備えが心配でした。県外に住む長男家族と都内に住む長女がいますが、あまり頼りたくないという気持ちもありました。
  • 課題とニーズ
    • 夫婦どちらかが先に判断能力を失った場合の備え
    • 夫婦二人とも判断能力が低下した場合の備え
    • 子どもたちへの過度な負担回避
    • 夫婦の老後資金の安全な管理
  • 制度設計
    • 相互任意後見契約:夫婦それぞれが互いを第一任意後見人、長女を第二任意後見人に指定。
    • 財産管理等委任契約:信託銀行と契約し、老後資金の一部を管理信託。月々の生活費を定期的に送金する仕組みを構築。
    • 家族信託:自宅不動産を長男に信託し、夫婦の居住権を確保しつつ、将来的な処分権も付与。
    • 見守り契約:地域包括支援センターと連携した見守りサービスに登録。
    • 死後事務委任契約:行政書士に夫婦の死後の手続きを委任。
  • 特徴的な点:夫婦間での相互任意後見契約と、子への任意後見契約を重層的に組み合わせることで、様々な状況に対応できる体制を整えました。また、信託銀行との財産管理契約や家族信託を活用することで、財産の安全な管理と承継も実現。家族会議を定期的に開き、情報共有と意思確認を行う仕組みも構築しました。
高齢者の任意後見活用事例 🖼️高齢者の任意後見活用事例のイメージ図🖼️

「親なき後」に備えるケース

【事例3】知的障害のあるお子さん(30歳)をもつCさん夫妻(65歳・63歳)の場合 —「親なき後対応型」の事例—

  • 状況:Cさん夫妻には30歳の知的障害のある息子がいます。息子は現在グループホームで生活し、就労継続支援B型事業所に通所しています。両親が高齢になったとき、また亡くなった後の息子の生活と財産管理が心配でした。長女(35歳)は協力的ですが、自分の家庭もあるため、過度な負担はかけたくないと考えていました。
  • 課題とニーズ
    • 「親なき後」の息子の生活支援と財産管理
    • 長女への過度な負担の回避
    • 障害年金や福祉サービスの適切な利用継続
    • 息子の特性に合わせた生活環境の維持
  • 制度設計
    • 任意後見契約:長女と社会福祉士の2名を任意後見人に指定。長女には身上監護を中心に、社会福祉士には財産管理と福祉サービスの調整を中心に委任。
    • 家族信託:Cさん夫妻の自宅不動産と金融資産の一部を長女に信託。息子の生活資金として、毎月一定額を給付する仕組みを構築。
    • 生命保険:Cさん夫妻がそれぞれ生命保険に加入し、受取人を息子と長女に指定。息子の分は特定贈与信託として管理。
    • 日常生活自立支援事業:現時点から社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用し、金銭管理のサポートを受ける。
    • 死後事務委任契約:Cさん夫妻の葬儀や納骨、家財整理等を行政書士に委任。
  • 特徴的な点:複数の任意後見人を選任し、家族(長女)と専門家(社会福祉士)の役割分担を明確にすることで、長女への過度な負担を避けつつ、専門的な支援も確保。家族信託と特定贈与信託を組み合わせることで、「親なき後」の息子の生活資金を長期的に確保する仕組みを構築しました。また、息子本人の自己決定を最大限尊重するため、本人を交えた定期的な面談の場も設定しています。

【事例4】精神障害のあるお子さん(25歳)をもつDさん(53歳)の場合 —「専門家連携型」の事例—

  • 状況:Dさんは53歳のシングルマザーで、統合失調症のある25歳の娘がいます。娘は現在は安定していますが、服薬管理が必要で、時々症状が悪化することもあります。Dさんは乳がんの手術を経験し、自分に何かあった場合の娘の生活と財産管理が心配でした。親族は高齢の母(80歳)しかおらず、頼れる親族がいない状況です。
  • 課題とニーズ
    • 自分に何かあった場合の娘の支援体制構築
    • 娘の症状に配慮した金銭管理と生活支援
    • 医療・福祉サービスの継続的な利用確保
    • 親族に頼れない中での支援者確保
  • 制度設計
    • 任意後見契約:信頼できる友人と精神保健福祉士の2名を複数任意後見人に指定。友人には日常生活の支援、精神保健福祉士には医療・福祉サービスの調整を委任。
    • 財産管理等委任契約:行政書士と契約し、現時点から娘の財産管理の支援を開始。
    • 見守り契約:地域の支援団体と契約し、週1回の訪問と電話による見守り体制を構築。
    • 生命保険:Dさんが生命保険に加入し、受取人を娘に指定。特約として重度障害保険金も付加。
    • 死後事務委任契約:同じ行政書士に、Dさんの死後の手続きと娘のサポート体制構築を委任。
  • 特徴的な点:日常的な見守りとお金の管理、医療・福祉サービスの調整を分けることで、それぞれの得意分野を活かした支援体制を構築。また、任意後見契約の発効前から財産管理等委任契約と見守り契約で支援を開始し、段階的なサポート体制を整えました。娘本人も交えた支援者会議を定期的に開催し、娘の意向を尊重しながら支援を進める体制も整えています。さらに、地域の障害福祉サービス事業所や医療機関とも連携し、重層的な支援ネットワークを構築しています。

その他の特徴的な活用事例

【事例5】海外在住の子を持つEさん(70歳)の場合 —「国際対応型」の事例—

  • 状況:Eさんは70歳の男性で、一人子の息子はタイ在住。頼れる親族が国内におらず、将来の備えに不安を感じていました。特に、言葉の問題で息子が日本の制度に対応できるか心配でした。
  • 課題とニーズ:国際的な対応が可能な支援体制の構築、言語の壁の克服、海外との連絡調整
  • 制度設計
    • 任意後見契約:タイ語対応可能な行政書士を任意後見人に指定。
    • 財産管理等委任契約:同じ行政書士と契約し、国内財産の管理を委任。
    • 国際遺言:日タイ双方で有効な国際遺言を作成。
    • オンライン見守りサービス:定期的なビデオ通話による状況確認と、息子への報告体制を構築。
  • 特徴的な点:国際的な対応が可能な専門家を選任し、言語や法制度の違いを克服。オンラインツールを活用した見守り体制と情報共有の仕組みを構築しました。

【事例6】認知症の親を持つFさん(45歳)の場合 —「親子支援型」の事例—

  • 状況:Fさんは45歳の会社員で、軽度認知症の母(75歳)の世話をしています。自分自身の将来と母のケアの両立に不安を感じていました。
  • 課題とニーズ:母親の適切なケア継続、自分自身の将来への備え、仕事と介護の両立
  • 制度設計
    • 母親の法定後見申立て:司法書士を成年後見人として選任。
    • Fさん自身の任意後見契約:同じ司法書士を任意後見人に指定。
    • ケアマネージャーとの連携:母親のケアプランに関する定期的な会議体制を構築。
    • 地域包括支援センターの活用:緊急時の対応体制を整備。
  • 特徴的な点:親の法定後見と自身の任意後見を同じ専門家に依頼することで、一貫した支援体制を構築。介護保険サービスと法的支援を効果的に組み合わせた事例です。

これらの事例が示すように、任意後見契約は個々の状況に合わせた柔軟な設計が可能です。特に他の制度と組み合わせることで、より充実した「将来への備え」を構築することができます。どのような制度設計が最適かは、ご本人の状況や希望によって異なりますので、専門家に相談しながら検討されることをお勧めします。

活用における重要なポイント

以上の事例から、任意後見契約を活用する際の重要なポイントをまとめると以下のようになります。

  • 早めの準備:判断能力が十分なうちに契約を結ぶことが重要です。準備が遅れると、契約締結自体ができなくなる可能性があります。
  • 適切な任意後見人の選任:信頼できる人を選ぶことはもちろん、その人の能力、年齢、健康状態なども考慮する必要があります。また、複数の任意後見人を選任し、役割分担をすることも効果的です。
  • 他制度との適切な組み合わせ:任意後見契約だけでなく、見守り契約、財産管理等委任契約、家族信託、死後事務委任契約など、他の制度と組み合わせることで、より充実した支援体制を構築できます。
  • 定期的な見直し:状況の変化に応じて、契約内容や支援体制を見直すことも大切です。特に、任意後見人や支援者の変更が必要になった場合には、早めに対応することが重要です。
  • 情報共有の仕組み作り:任意後見契約の存在や内容を、家族や関係者に知らせておくことが重要です。また、定期的な情報共有の場を設けることで、支援の質を高めることができます。

こまいぬ行政書士法人では、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な制度設計のご提案を行っております。次章では、これまでの内容を踏まえたまとめと、当法人のサポート体制についてご紹介します。