📝 死亡後の初期対応(最初の1週間)

大切な方がお亡くなりになった直後は、悲しみの中でも様々な手続きが必要です。まずは以下の対応を行いましょう。

死亡届の提出(死亡後7日以内)

医師の死亡診断書を受け取ったら、亡くなった方の本籍地か死亡地の市区町村役場に死亡届を提出する必要があります。これは法律で定められた義務であり、死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡の場合は3ヶ月以内)に行わなければなりません。死亡届の提出者は、親族や同居者などになります。

葬儀の手配

ほとんどの場合、死亡届の提出と並行して葬儀の手配を進めることになります。葬儀社との打ち合わせ、参列者への連絡、葬儀の進行などを決めていきます。葬儀社は死亡届の提出や火葬許可証の取得などの手続きをサポートしてくれることが多いため、必要書類などについても相談するとよいでしょう。

口座凍結のタイミングについて

被相続人の死亡後、金融機関に死亡の連絡をすると口座が凍結されます。しかし、実務上、すぐに口座凍結の手続きを行わない方が良い場合もあります。

  • 公共料金の自動引き落とし:被相続人名義で水道・電気・ガスなどの公共料金の引き落としが設定されている場合、口座凍結により支払いが止まります。新たな契約名義変更が完了するまでは、一時的に口座凍結を遅らせることで生活インフラの利用を継続できます。
  • 葬儀費用の支払い:金融機関によっては、葬儀費用に限り被相続人名義の預金口座からの支払いを認めているところもあります。葬儀社に確認の上、葬儀後に凍結手続きを行うことで、相続人の一時的な立替負担を避けられます。
  • 共同名義口座の場合:被相続人と家族の共同名義口座の場合、凍結により生活費の支払いに支障をきたす可能性があります。代替手段を確保してから凍結手続きを行うことをお勧めします。

ただし、被相続人の死亡を金融機関に故意に隠すことは問題があるため、必要最小限の期間にとどめるべきです。また、凍結解除には相続手続きが必要となりますので、早めに準備を進めましょう。

死亡の事実を伝えるべき機関

以下の機関には早めに連絡をしておくことをお勧めします。

  • 勤務先(故人が働いていた場合)
  • 年金事務所(年金受給者だった場合)- 未支給年金の請求手続きも必要
  • 健康保険組合(健康保険の資格喪失手続き)
  • 銀行などの金融機関(口座凍結の手続き – 上記のタイミングに注意)
  • 携帯電話会社やクレジットカード会社などの契約先
  • 市区町村役場(国民健康保険、介護保険、住民税などの手続き)

これらの手続きは、後の相続手続きをスムーズに進めるための準備段階となります。

📝 相続手続きに必要な戸籍等の収集

相続手続きを進めるためには、故人と相続人に関する戸籍関係書類を収集する必要があります。この作業は意外と時間と労力がかかるため、早めに着手しましょう。

収集が必要な戸籍関係書類

  • 被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本:本籍地の移動がある場合は、それぞれの本籍地の市区町村役場から取得する必要があります。
  • 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票):最後の住所地の市区町村役場で取得します。
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本:各相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。
  • 相続人全員の印鑑証明書:遺産分割協議書作成時に必要となります(発行から3ヶ月以内のもの)。

戸籍広域交付制度の活用

2020年5月に改正された戸籍法により、戸籍証明書等の広域交付が可能になりました。この制度を活用すると、相続手続きの戸籍収集がより効率的になります。

  • 本籍地以外での取得が可能:従来は被相続人の本籍地がある市区町村役場でしか取得できなかった戸籍謄本等が、全国どこの市区町村窓口でも取得できるようになりました。
  • 相続手続きでのメリット:被相続人の本籍が複数箇所に移動していた場合でも、最寄りの市区町村窓口で一括請求できるため、郵送による請求や遠方への出張が不要になります。
  • 請求に必要な情報:広域交付を利用するには、被相続人の本籍地と筆頭者氏名が正確にわかっている必要があります。古い戸籍の場合、これらの情報が不明なケースもあるため注意が必要です。
  • 手数料:広域交付でも手数料は従来と同額(1通450円程度)ですが、郵送料や交通費の節約になります。

ただし、広域交付システムでも対応していない古い戸籍(明治時代の除籍など)もあるため、すべての戸籍が最寄りの市区町村で取得できるとは限りません。事前に問い合わせることをお勧めします。

法定相続情報一覧図の活用

2017年5月から始まった「法定相続情報証明制度」は、相続手続きの負担を大幅に軽減できる便利な制度です。一度作成しておくと、各種相続手続きで戸籍謄本等の提出が不要になるため、相続手続きがスムーズに進みます。

  • 制度の概要:被相続人に係る戸籍謄本等の束を法務局に提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出することにより、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付する制度です。
  • 主なメリット:各種相続手続きで戸籍謄本一式を何度も用意する必要がなくなります。金融機関や各種名義変更の窓口で、この一覧図の写しを提出するだけで済むため、時間と費用の節約になります。
  • 取得方法:被相続人の最後の住所地を管轄する法務局(登記所)に申請します。必要書類は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等と相続人の現在の戸籍謄本等、そして申請書と法定相続情報一覧図です。
  • 活用場面:銀行等での預貯金の払い戻し、不動産の相続登記、証券会社での相続手続き、保険金の請求など、様々な相続手続きで活用できます。
  • 実務上の注意点:無料で取得でき、有効期限もありません。ただし、相続放棄などで相続人に変更があった場合は更新が必要です。また、すべての機関が受け付けているわけではないため、事前に確認することをお勧めします。

戸籍収集の実務上の注意点

戸籍の収集は相続手続きの中でも特に煩雑な作業です。以下のポイントに注意しましょう。

  • 連続した戸籍が必要:出生から死亡までのすべての戸籍を途切れなく集める必要があります。本籍地の変更がある場合は複数の市区町村から取り寄せることになります。
  • 除籍謄本・原戸籍の取得:古い戸籍は除籍や改製原戸籍となっていることが多く、これらも必ず取得する必要があります。
  • 取得に時間がかかる:特に古い戸籍は保存期間の関係で取得に時間がかかることがあります。郵送で請求する場合は往復で2週間程度見ておきましょう。
  • 請求権限の確認:戸籍の請求は、本人や配偶者、直系尊属・卑属などに限られます。故人の兄弟姉妹の戸籍を取得する場合などは注意が必要です。

戸籍の収集は相続手続きの基礎となる重要な作業です。また法定相続情報一覧図の作成には、正確な戸籍の読み取りと相続関係の把握が必要です。こまいぬ行政書士法人では、戸籍収集の代行はもちろん、相続関係説明図や法定相続情報一覧図の作成、取得手続きのサポートも行っておりますので、お気軽にご相談ください。

📝 相続財産の調査と相続人の確定

戸籍書類が揃ったら、相続財産の調査と法定相続人の確定を行います。

相続財産の徹底調査

相続財産には、プラスの財産(現金、預貯金、有価証券、不動産、車両、貴金属など)だけでなく、マイナスの財産(借金、住宅ローンなど)も含まれます。以下の方法で調査します。

  • 預貯金の調査:故人が取引していた銀行等で残高証明書(または取引履歴)を取得します。口座の有無を確認するには「金融機関照会」という方法も利用できます。
  • 不動産の調査:法務局で不動産登記簿謄本を取得します。全国の法務局から取得できるため、被相続人の住所地の法務局で請求することが一般的です。
  • 有価証券の調査:証券会社や投資信託会社に問い合わせます。名寄せサービスを利用することも可能です。
  • 生命保険の調査:保険会社に問い合わせ、死亡保険金の受取人を確認します。受取人が被相続人以外の場合は原則として相続財産には含まれません。
  • 負債の調査:住宅ローンや消費者金融からの借入などを確認します。借金は相続放棄しない限り引き継がれるため、きちんと調査することが重要です。
  • その他の財産:自動車、貴金属、美術品、特許権、著作権など、あらゆる財産が相続の対象となります。

法定相続人と法定相続分の確定

収集した戸籍書類をもとに、誰が法定相続人になるかを確定します。相続人の範囲は、民法で次のように定められています。

  • 第一順位:配偶者と子(子が既に死亡している場合は孫など)
  • 第二順位:配偶者と被相続人の父母(第一順位がいない場合)
  • 第三順位:配偶者と被相続人の兄弟姉妹(第一順位も第二順位もいない場合)

配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の相続人は順位によって決まります。たとえば子がいる場合は、父母や兄弟姉妹は相続人とはなりません。

相続人の構成 法定相続分
配偶者と子 配偶者1/2、子1/2(子が複数の場合は均等に分割)
配偶者と父母(子がいない場合) 配偶者2/3、父母1/3(父母が一方のみの場合はその親が1/3)
配偶者と兄弟姉妹(子も父母もいない場合) 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数の場合は均等に分割)
配偶者のみ(他の相続人がいない場合) 配偶者が全て相続

法定相続人の確定は、相続手続きの大前提となる重要なステップです。戸籍を正確に読み解き、法定相続人を確定することが必要です。特に養子縁組や離婚・再婚などがある場合は慎重な確認が必要となります。

📝 遺産分割協議と遺産分割協議書の重要性

相続人が複数いる場合、相続財産をどのように分けるかを決めるのが「遺産分割協議」です。この協議は相続手続きの中核となる重要なプロセスです。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、相続人全員で話し合って決めた遺産の分け方を記した文書です。この文書には以下の内容を記載します:

  • 被相続人の情報(氏名、死亡日、最後の住所)
  • 相続人全員の情報(氏名、住所、被相続人との続柄)
  • 相続財産の一覧
  • 分割の内容(誰が何を相続するか)
  • 作成日
  • 相続人全員の署名・押印(実印)

この遺産分割協議書は、様々な相続手続きで繰り返し必要となる極めて重要な書類です。

遺産分割協議書が必要となる主な手続き

遺産分割協議書は、以下のような様々な相続手続きの場面で必要となります:

  • 不動産の名義変更:法務局での相続登記に必要です。
  • 預貯金の払い戻し:銀行等での相続手続きに必要です。
  • 証券口座の名義変更:証券会社での手続きに必要です。
  • 自動車の名義変更:運輸支局での手続きに必要です。
  • 相続税の申告:税務署への申告の際に提出します。

遺産分割協議書作成の実務上の注意点

遺産分割協議書の作成にあたっては、以下の点に注意が必要です:

  • 相続人全員の参加:一人でも欠けると協議は無効となります。認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見人の選任などが必要になることがあります。
  • 実印の押印と印鑑証明書の添付:相続人全員の実印による押印と、印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)の添付が必要です。
  • 財産の正確な特定:不動産の場合は所在地や登記簿上の表示、預貯金の場合は金融機関名・支店名・口座番号などを正確に記載します。
  • 一つでも複数の原本を用意:各種手続きで原本提出が求められることが多いため、必要な数だけ原本を作成します。特に相続人が多い場合は、全員が再集合して署名・押印するのは大変なので、最初にまとめて複数の原本を作成することをお勧めします。

遺言がある場合でも遺産分割協議は可能

被相続人が遺言を残していた場合でも、相続人全員の合意があれば遺言の内容と異なる分割をすることが可能です。これは「遺言よりも遺産分割協議が優先される」というわけではなく、相続人全員が遺言内容とは異なる分割方法に同意する場合は、その合意に基づいて分割できるということです。

ただし、遺留分(一定の相続人に最低限保障される相続分)に関する問題などが生じる可能性があるため、遺言と異なる分割を行う場合は専門家に相談することをお勧めします。

📝 各種相続手続きの実務ポイント

遺産分割協議が整ったら、各種の相続手続きを行います。ここでは主な手続きの実務ポイントを解説します。

不動産の相続登記

不動産を相続した場合は、法務局で相続登記を行う必要があります。2024年以降は、相続・遺贈による不動産の取得があった場合、その所有権移転登記を法定期間内(3年以内)に申請することが義務化されました。

必要書類

  • 登記申請書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等一式
  • 相続人の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(原本)と相続人全員の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書

預貯金の払い戻し

被相続人名義の預貯金を払い戻すには、金融機関ごとに手続きが必要です。金融機関によって必要書類や手続きの方法が異なるため、事前に確認しましょう。

一般的な必要書類

  • 相続届(金融機関所定の様式)
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 相続人の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(原本)と相続人全員の印鑑証明書
  • 相続人の本人確認書類
  • 被相続人の通帳・キャッシュカード・届出印(ある場合)

自動車の名義変更

被相続人名義の自動車を相続した場合は、運輸支局で名義変更手続きを行います。

必要書類

  • 移転登録申請書
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
  • 相続人の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(原本)と相続人全員の印鑑証明書
  • 自動車検査証(車検証)
  • 自賠責保険証明書(名義変更手続きの際に必要)

自動車の相続手続きでは、自賠責保険の名義変更も必要です。保険会社で契約者名義変更の手続きを行ってから、運輸支局での登録手続きを行うのが一般的です。

相続税の申告

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納付が必要になります。申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

相続税の申告は専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをお勧めします。

相続手続きの期限まとめ

相続手続きには様々な期限があります。主なものをまとめると以下のようになります:

手続き 期限
死亡届の提出 死亡の事実を知った日から7日以内
相続放棄の申述 相続の開始を知った日から3ヶ月以内
相続税の申告・納付 死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内
不動産の相続登記 不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内(※2024年以降)

まとめ

相続手続きは多岐にわたる複雑なプロセスです。本記事では、死亡後の初期対応から各種相続手続きの実務ポイントまで、時系列に沿って解説しました。特に重要なポイントをまとめると:

  • 口座凍結のタイミングは実情に合わせて判断:公共料金の自動引き落としや葬儀費用の支払いを考慮して、適切なタイミングで行いましょう。
  • 戸籍広域交付制度を活用:相続手続きに必要な戸籍収集が効率的に行えるようになりました。
  • 相続手続きの基礎として戸籍収集が重要:被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等が必要です。
  • 遺産分割協議書は多くの手続きで繰り返し必要:内容を正確に記載し、相続人全員の実印による署名・押印と印鑑証明書の添付が必要です。
  • 遺言がある場合でも全相続人の合意で異なる分割が可能:ただし、遺留分に関する問題などには注意が必要です。
  • 様々な相続手続きにはそれぞれ必要書類と期限がある:不動産登記、預貯金の払い戻し、相続税申告など、手続きごとに必要書類を確認しましょう。
  • 遺言の有無が相続手続きの難易度に大きく影響:遺言があれば多くの手続きが簡略化されます。

相続手続きは専門的な知識が求められる場面も多く、不安がある場合は早めに専門家に相談することをお勧めします。こまいぬ行政書士法人では相続手続きの無料相談も実施していますので、お気軽にご連絡ください。大切な方の遺産を適切に引き継ぐためのお手伝いをさせていただきます。