📝遺言書とは?遺書との違い

「遺言書」と「遺書」は似た言葉ですが、その意味と法的効力は大きく異なります。

遺言書(いごんしょ)とは、自分の死後に財産をどのように分配するかなど、法的な効力を持たせるために民法で定められた要件を満たして作成する文書です。相続人の指定や財産の分割方法、遺贈(特定の財産を特定の人に与えること)など、法的に有効な意思表示として認められます。

一方、遺書(いしょ)は、自分の死に際しての気持ちや思いを伝える文書であり、法的な効力はありません。「ありがとう」「さようなら」といった感謝や別れの言葉、人生の振り返りなど、感情的なメッセージが中心となります。

遺言書と遺書の違いを示す画像

遺言書は法定の形式に従って作成されなければ無効となりますが、遺書には特定の形式はありません。大切なのは、遺族への伝言や心情を記すのであれば遺書、財産分与などの法的な効力を持たせたいのであれば遺言書を作成する必要があるということです。

📝遺言書の種類とそれぞれの特徴

民法では、主に3種類の遺言書形式が認められています。それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身の状況に合わせて選択することが重要です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自筆で書き、日付を記入し、署名・押印する遺言書です。2019年1月からは法務局での保管制度も始まりました。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人の前で遺言内容を口述し、公証人が作成した文書に署名・押印する方式です。証人2名以上の立会いが必要です。原本は公証役場で保管されます。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が作成した遺言書を封筒に入れて封印し、公証人と証人の前で「これは自分の遺言書である」と述べて手続きを行う方式です。内容を秘密にしたいときに使用します。

遺言書の種類 メリット デメリット
自筆証書遺言 ・費用がかからない
・いつでも作成可能
・内容を秘密にできる
・法務局保管制度で紛失防止可能
・形式不備で無効になるリスクあり
・相続時に家庭裁判所の検認が必要(法務局保管を除く)
・紛失・改ざんのリスク(自己保管の場合)
公正証書遺言 ・法的に有効な形式で作成される
・原本が公証役場で保管されるため紛失の心配なし
・検認不要で即効力発生
・専門家のサポートを受けられる
・費用がかかる(内容により5〜10万円程度)
・証人2名が必要
・公証役場への訪問が必要(出張対応も可能)
・内容が第三者に知られる
秘密証書遺言 ・内容を秘密にできる
・公的な証明力がある
・形式不備で無効になるリスクあり
・相続時に家庭裁判所の検認が必要
・ほとんど利用されていない

実務上、最も安全で確実なのは公正証書遺言です。自筆証書遺言は手軽に作成できますが、形式不備による無効リスクがあります。法務局保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを減らせる点は大きなメリットです。秘密証書遺言は現在ではほとんど利用されていません。

📝遺言書がなかった場合の実例と問題点

遺言書を残さないまま亡くなると、法定相続分に従って財産が分割されますが、これが家族間のトラブルに発展するケースは少なくありません。例えば以下のような実例をご紹介いたします。

【実例】再婚相続トラブル

70代の父親Aさんは、最初の妻との間に長男Bさんと長女Cさんがいましたが、妻が亡くなった後に再婚し、10年間新たな妻Dさんと暮らしていました。Aさんは「自分の死後は今の妻Dさんに家に住み続けてほしい」と周囲に話していましたが、遺言書は作成していませんでした。

Aさんが亡くなった後、法定相続では自宅を含む財産は妻Dさんが2分の1、子どもたちBさんとCさんがそれぞれ4分の1ずつを相続することになります。しかし、子どもたちは「実家を売却して現金で分割したい」と主張。Dさんは「夫の希望通り家に住み続けたい」と反対し、話し合いは平行線をたどりました。

最終的には調停を経て、Dさんが子どもたちの相続分を現金で買い取ることになりましたが、預貯金だけでは足りず、新たに住宅ローンを組む必要が生じました。Aさんが遺言書で「妻に自宅を相続させる」と明記していれば、このような精神的・経済的負担は避けられたでしょう。

遺言書があれば防げたトラブル

上記のケースでは、Aさんが遺言書で「配偶者Dさんに自宅を相続させる」「子どもたちには預貯金から〇〇円ずつ相続させる」といった具体的な指示を残していれば、トラブルを未然に防げたでしょう。

  • 家族構成が複雑な場合(再婚、内縁関係など)
  • 特定の財産を特定の相続人に引き継がせたい場合
  • 法定相続分と異なる割合で分割したい場合
  • 相続人以外の人(内縁の配偶者、孫、子どもの配偶者など)に財産を残したい場合
  • 生前に特定の相続人に多額の援助をしており、相続で調整したい場合

このような状況では、遺言書の作成が特に重要です。法定相続では対応できないケースや、遺族間の解釈の相違が生じやすい状況では、明確な意思表示となる遺言書が家族の平和を守ります。

📝遺言執行者の役割と重要性

遺言書を作成する際に見落とされがちなのが「遺言執行者」の指定です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことで、遺言書の中で指定することができます。

遺言執行者の主な役割

遺言執行者には以下のような重要な役割があります(必要に応じて各種専門家への依頼も含む):

  • 相続財産の調査・管理
  • 遺言の内容に従った財産分割手続き
  • 不動産の名義変更など各種名義変更手続き
  • 遺贈がある場合の引き渡し手続き
  • 相続税の申告・納付に関する手続きの補助

遺言執行者を指定するメリット

遺言執行者を指定しておくと、以下のようなメリットがあります:

  • 遺言内容の確実な実現
  • 相続人間のトラブル防止
  • 専門的な手続きを任せられる安心感
  • 相続人が高齢・遠方の場合の負担軽減

遺言執行者には、信頼できる相続人の一人を指定する方法と、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)を指定する方法があります。特に複雑な相続や、相続人間に争いが予想される場合は、中立的な立場の専門家を指定することをお勧めします。

📝遺言と死後事務委任契約の補完関係

遺言書でカバーできるのは主に「財産の承継」に関する事項です。しかし、葬儀の方法やペットの世話、SNSアカウントの扱いなど、財産以外の事項については遺言書では対応できません。こういった非財産的な事項を法的に有効な形で指示するのが「死後事務委任契約」です。

死後事務と遺言の違いのイメージ

死後事務委任契約で対応できる事項の例

  • 債務の支払いや各種行政手続き
  • 葬儀・埋葬に関する希望(場所、形式、予算など)
  • ペットの引き取りや世話
  • デジタル遺品(SNS、メール、写真データなど)の処理
  • 供養や墓の管理に関する事項
  • 生前整理されなかった家財道具の整理・処分等

遺言と死後事務委任契約の使い分け

対象項目 遺言書 死後事務委任契約
不動産や預貯金などの財産分配 ×
葬儀・埋葬の方法 ×(法的効力なし)
ペットの世話・引き取り ×(法的効力なし)
デジタル遺品の処理 ×(法的効力なし)
遺品の整理・処分 ×(法的効力なし)

理想的なのは、遺言書と死後事務委任契約を併用することです。例えば、財産は遺言書で法的に確実に引き継ぎつつ、葬儀や身の回りの整理などは死後事務委任契約で信頼できる人や専門家に託す方法が効果的です。当法人では、お客様のご希望に応じて両方をワンストップでサポートしています。